10年くらい前までの私は、何もかも、忘れてしまうので、悩むことがなかった。
過去の写真には、めちゃくちゃ酷い髪型と格好で写っている。
一瞬一瞬で、人に言われたことを気にするが、次の瞬間もう忘れているような人間だった。
記憶障害を治してからは、
「こんな風に言われたから、次は気をつけよう」と思うようになった。
仕事で怒られなくなったけど、人目を気にするようになった。
それは良かったのか悪かったのか分からない。
髪型も服装も変なまま、仕事の失敗にも気づかない人間でいた方が、幸せだったかな?
他人が何を言ってもまったく届かない人間でいた方が。
でも、毎日怒られてるうちになんか変だと思った。
どうして自分だけこんなに頭が悪いんだろうと思った。
その時は、それ以上のことは分からなかった。
あのままでいた方が、自分を知らずにいられて幸せだっただろうか?
バカでいた方が幸せだったかな?
動物は、人間みたいに悩んだりはしない。
人間らしくなって、知能を得る代わりに、悩むようになった。
記憶障害を治すことは、動物から人間になったみたいで、革命的な体験だった。
でも、閉じ込めていた記憶の開かずの間を見ることは、とても辛いことだった。
それに、初めて現実を受け止めて、人よりものすごい遅い思春期のような気持ちを体験した。
というか、まだ人間の思春期みたいな思考回路で生きているかもしれない。